油土を使って肖像レリーフを造る工程を、構想から完成までの制作進行に合わせ、紹介します。
レリーフを造ってみたい方へのヒントになればと思い、制作の進行具合をアップするだけでなく、“裏ワザ”を含めた技法や、材料・道具の解説も一緒にメモします。
2010年10月17日
「着色と仕上げ」 作品となる部分をかたどりしたら充分に乾燥させます。
今回はアクリル絵具で着色する予定ですので、水気があると絵具の乾きに影響が出るからです。
アクリル絵具は水性で、乾くと耐水性があり、しかも非常に薄い皮膜で色が出るので石膏や樹脂の着色に適した絵具のひとつです。

下塗りとしてまず黒を塗り、茶系にしたければバーントアンバー、ローアンバーなどを主にして色を重ねます。
今回は茶系ではなく、ブロンズで言えば緑青仕上げのような緑系を狙いました。
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「額板の製作」
当初、今回のレリーフは市販されている油絵用の額に入れるつもりでしたが、予想以上に肉厚になったため、似合わないと判断しました。
そうなれば額も作るしかありません。
凝った額ですと手に負えませんが、シンプルな額であればさほど難しい話ではありません。
ホームセンターで材料を買い、自分で作ることにしました。

<額の製作>
レリーフの場合、ケヤキや楠などを使った単純な一枚板を仕上げ、額に使ったりします。
木目も美しく重厚ですが、40センチ四方もある板ですと探すのも大変で、高価です。
今回はシナベニアと角材で作ることにして、色は作品の色との相性を考え、黒色に着色しました。
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作品は取り外しが可能なように4本のネジで止めます。
ネジ棒を用意して適度な長さを測り、4本そろえます。
難しいのはネジ棒をレリーフへ接着する位置と額板に開ける穴の位置取りです。
4本のネジ位置と4本の孔を合わせるためには結構苦労します。
私のやり方は以下のとおりです。
(1)額と同じ形に紙を切り、その上で作品の位置を決めます。
(2)鉛筆等でレリーフの四角いアウトラインを描き込みます。
(3)レリーフをどかしてアウトラインの中、数センチ入ったところに4つの点を印します。
(4)額に紙を重ねたそのままの状態で、印のところに錐で彫り込みを入れます。
(5)錐で入れた彫り込みを目印にドリルでネジ棒より1ミリほど太い孔をあけます。
(6)(2)で描いたレリーフのアウトラインに沿ってハサミで切ります。
(7)座布団などの上に裏返しにレリーフを置き、その裏面に切った紙をアウトラインを
そろえて重ねます。
*紙の裏表、上下に注意する。
(8)キリで開けた孔を手がかりに、レリーフの裏面に目印をつける。
(9)ネジ棒よりやや太めのドリルで、貫通しないように約5ミリの深さに孔を開ける。
(10)孔に溜まった石膏粉をよく取り除き、エポキシ系の接着剤で垂直に固定する。

<ネジ棒の取り付け>
作品本体に5ミリほどの深さの孔を開け、接着剤で固定
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4本のネジ棒を取り付けた状態
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額板に開けた孔にネジ棒を通し、裏側からナットで止めればやっと出来上がりです。

まだ壁に吊り下げることは出来ませんが、完成です。
6月12日にスタートして、途中休んでいた時期もあり、約4ヵ月もかかってしまいました。
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「後記」
通常、レリーフは壁に掛けて鑑賞するので、額の裏側に壁掛け用の紐をとりつけます。
紐が長すぎたり、バランスが悪くお辞儀をしたように前屈みになってしまうとせっかくの作品が台無しです。
壁には出来るだけ額の裏側を密着させ、目線の高さより少し上になるようにセッティングするのが理想的です。
今回は粘土を使ったレリーフの造り方をご案内しました。
レリーフは絵画でもなく、彫刻とも違うような、いわゆる合いの子のようなジャンルです。
大きなものでなければ、絵を描くように楽しめる造型でもあります。
もし、チャレンジしてみたい方があれば、最初に「花」や「鳥」を作ってみることをお勧めします。
また、最近ではいろんな粘土が市販され、そのまま固めて作品にするブロンズ粘土や石の粉を材料にしたような紙粘土の仲間も増えています。
それらを使えば石膏取りなどの作業も必要がなく、より手軽にレリーフ制作を楽しむことが出来ると思います。
ここまで読んで頂いた方に心より感謝申し上げます。
完成した坂本龍馬肖像レリーフは10月21日より開催される白岡市美術家協会展に展示します。
会場で実物をご覧いただければ幸いです。
● 中村和彦(第二部・彫刻)
・1951年 福岡県生
・東京藝術大学彫刻科・大学院を経て、造幣局工芸官
現職にて貨幣・メダルなどの原型制作に携わりながら制作活動を行っている
・埼玉県美術家協会 彫刻部 委嘱
・白岡市美術家協会 会員
・個人のホームページは<こちら>から
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